それでいい

本と映画を中心とした何か、気が向いたものだけ

すべて真夜中の恋人たち 川上未映子

簡単にいうなれば、今まで所謂”青春”とは縁遠かった主人公、入江冬子がちょっと遅れて大人になる物語、でしょうか。女性ひとりの強さというものが感じられました。どちらかといえば女性向けだと思います。

冬子は人間関係が苦手な故に、それをお酒の力で誤魔化すようになるというところから始まります。いわゆるアル中。カフェインと合わせると吐いてしまうんだとわざわざ設定した割に、あまりそれが活かされないまま終わったのは、ちょっともやもや。もしかしたら、急激にアルコール耐性が付いたという描写かもしれないが……

まず序盤までで感じたのは、過去形ばかりが続く表現がやっぱり僕は苦手だなということでした。コミュニケーションが苦手な主人公なので、会話もリズミカルでない部分が多く、慣れるまで、また物語が動き出すまではちょっとばかし我慢が必要でした。ただそんな難解な内容でもないので、耐えるのが辛いとまではいきません。あとは平仮名が多いところもちょっと。こちらに関しては登場人物の性格の表現などで使い分けていると思われるため、仕方がありませんが。

全体的には正直苦手でした。完全に、個人的で、勝手な感覚ですが、一見美しく見える意味深な文章が列挙されており、最初のうちは独特な感情表現だと思っていましたが、連続して使われると徐々に陳腐に感じられ、良さが損なわれているように感じてしまいました(それを書きたいがために小説を書いたかのような)。内容的にも本当にその設定は必要だったのかと思うところが多々あり、読んでいる最中、読んだ後にやはり、登場人物が人外陽のような、そんな感覚を抱いてしまいます。例えば冬子は校正の仕事に携わっていますが、おそらくそれは物語最終面で、初めて自分で言葉(タイトルそのままの言葉)を紡ぎ出したという展開にしたかったからでしょう。ただ他の場面では、校正自体に興味がないとほとんどそれに必要性を感じられませんでした(あまりにも言葉遣いを気にしなさ過ぎたり。いくら興味がなくても気になってしまう職業病があると思う)。初めてのセックスの描写も、とってつけたようなものに感じられてしまいます。伝えたいことがたくさんありすぎたのか、筋が一本通っていないような感覚。

内容については人それぞれなので、多くは書きませんが、淡々とした起承転結がはっきりとはしていない物語です。個人的にそれ自体は嫌いではないです。

人の、特に”陰キャ”の描き方は格別にうまいです。きっとこういう人がたくさん周囲にいたことがあるのかもしれません。自分が”陰キャ”だから書けるものではなく、客観的に見ないと描けないと思います。